引越し作業を終え、少し遅めの昼食をファミリーレストランで済ませた――それが、事の始まりだった。
家族に引越しを手伝ってもらった新居には、まだガスや電気が通っていなかったため、私はそのまま父が所有する車に同乗して帰ることにした。疲れた父の代わりに兄が運転を引き受け、両親は後部座席につき、ファミレスに寄りがてら帰ることになった。
3年前に父が購入した車には、カーナビが標準搭載されていた。最短運転時間を重視して順路を決めているようで、カーナビは私たちが予定していたインターの次で降り、そこからぐるりと遠回りするよう示していた。
だが、私たちは往路の時点でそれと異なるルートを選び、そのルートを覚えていたため、帰りはナビを無視して車を進めた。ナビは、「ただ今、ルートを検索しております」という音声と共に、新たなルートを画面に表示し続ける。
兄も最初は笑い飛ばしながら反応していたが、何度も修正するその案内はラジオの音声を妨げ、次第に耳障りに聞こえてきた。
こうしてナビを無視して進み続けると、やがてナビもこちらと一致するようになった。これでいちいち「検索しております」という声を聞かなくて済む――その矢先だった。
「ピーッピーッピー」
運転席付近から耳慣れない音がした。同乗者は無反応だった。
「今の音は何なの? 」
あまり車に乗らない私は、持ち主である父に尋ねたが、父もわからないと言う。音声ガイダンスみたいに聞き流していいものなのか――。
「あっ! わかった!」
不意に兄が叫ぶと同時に、突然急ブレーキをかけた。
「ETCカード入れてないでしょ!」
車の鼻先には、開かない料金所のゲートがあった。後続車がなかったために無事で済んだが、その出来事をようやく把握した私は遅ればせながら驚いた。
「あぁ、さっきレストランで降りたときに抜いたんだった」
事故にならなかった安心からか、「そういえば」というような表情で父は答える。運転していた兄は、目の前に迫って来る閉ざされたゲートと、もしかしたら追突されるかもしれない、という板挟みに対して興奮が収まりきらない様子だった。
どうしてこんなことになったのか――。その後、無事高速に乗ってから家族で検証してみた。
父は、ETCに使うカードを普段の生活でも使用する。さらに、車から降りる際にカードが入れっぱなしだと警告されることもあって、車から降りる時には必ず抜くようにしていたのだった。一方の兄は、普段ETC専用と決めたクレジットカードを入れっぱなしにしていたため、ETCカードが入っているものと思い込んでいた。この認識の違いが、急ブレーキの発端だったのだろう。他人の車を運転する際に注意すべき点である。
また、父の車では、ETCカードを入れていない状態でエンジンをかけると、「ETCカードが挿入されていません」とカーナビが音声ガイダンスで注意してくれる仕様になっている。しかし、出発した時は会話が盛り上がっていたので、家族全員で聞き逃していたのだった。
そして、ETCカードを入れていない場合、インター直前になっても音声ガイダンスは無く、警告音だけを発するという仕組みになっていた。その警告音は、今まで聞いたことが無かったため、何の音なのかわからなかったことも混乱の要因となっていた。
そんな折、これまで住んでいた宮城の地方新聞の記事が目に止まった。仙台にもETCレーンの150メートル手前に、アンテナと警告音装置が設置されたのだという。
記事には、「車内に『ピーッ、ピッ、ピッ』という警告音や『ETCレーンを通過できません』などの音声が流れる」と紹介されている。だが、なぜそれを音声なしで警告しないのだろうか。これでは警告音の意味が分からず自分達と同じような事態に陥る人が出てくるのも目に見えているではないか――。
そこで、ETC予告アンテナを設置した各地の高速道路を調べてみた。阪神高速道路株式会社の案内によると、車載機メーカーや車種によって、すなわちETC車載器自体の機能やカーナビによって案内の仕方が変わる。また、音声や警告音の代わりにアクセスランプを信号に見立てた色で表示したり、液晶に「NG」などと表示されるだけのものもあるという。
製造コストの面から機能を簡略化したのかも知れないが、果たしてこのような予告機能で、運転手がETCレーンの十分手前から無事に対処出来るのだろうか。中には事故でも起こして身体で覚えるか、避難訓練のように予行練習でもしない限り、難しいものもあるように私には思えた。
【オーマイニュースインターナショナル】
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